見知らぬ国から~子どもの情景から
シューマンはこの連作の最初の曲に風変わりなタイトルをつけることで見知らぬ土地の人々に対する想像を書きたてようとしたのです。
「見知らぬ国から」は音楽的には極めて単純。
そして、繰り返しの多い曲です。
曲の冒頭の5音のモチーフは12回も繰り返されます。
優れた作曲家だったら、どんな子どもにでも座ったまま何回も何回も、繰り返して弾ける曲の書き方はしなかっただろう・・・。
と思うかもしれません。
でも、シューマンには音楽の形式上、そうしなくてはならない理由があったのです。
最初のこの曲はト長調です。
局を通して転調(その調が変わること)も調整の変更もしていません。
冒頭の第一のモチーフは上に上がる6度音程と付点のリズムを伴った下行する音階で出来ています。
モチーフのB(ベー)(ドイツ音名)シのフラットの音・G(ゲー)ソの音、F#(フィス)ファの#の音、E(エー)ミの音、D(デー)レの音は何回も繰り返されます。
なんでそんなに繰り返されるの?
というと音楽上の理由は実はその5つの音が子どもの情景の全曲にわたる基本のモチーフだからなのです。
シューマンはこれを繰り返すことで聴く人の意識に耳に、心に、それを記憶させていって連作全体を通して変化しながら出てくるモチーフに気がつくようにしているのです。
それなので、リピート(繰り返し)は全て楽譜に書かれている通りに弾かなくてはならないのです。
さてさて、この曲の素材のなにがそんなに異国なのでしょう。
それは、こんな単純なハーモニーの単純なト長調の曲ですが、最初のフレーズに減7度という音程が使われているのがどちらかというと、不可思議なのです。
1838年の当時はこの減7という和音といえば決して荒らしい不協和音ではありませんでした。
でも、この単純な曲での減7の和音は不可思議な瞬時を作り出しているのです。
この曲の仕組みは、非常に内密にできており、デリケートなのです。
減7のハーモニーは何回も繰り返されるうちに、だんだん不思議な感じで薄れていきます。
それがこの曲の持つ情感があって、見知らぬ土地の見知らぬ人々は繰り返しを通していくうちにだんだん異国ではなくなって、少しずつ親しみを感じさせていくのです。